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ツインタワーズがおくる、槇原敬之(ほぼ)全曲レビュー ライトあるみのブログ

9.MILK

昔は素晴らしい友情の曲だと思っていました。
ただ、年齢を重ね、経験を積むうち、自分の考えと少しだけ違うなと感じ始めていました。
大好きな曲です。
実体験を元にした、というのはファンの中では有名で、幾たび色んな媒体でエピソードが書かれてきたようです。
感情を無くした「僕」が、ある人と話し励まして貰う事で、再び感情を取り返すストーリー。
「月も桜を揺らす風も もう僕の前通り過ぎないから」
美しい表現です。
このような美しい情景を描くシンガーソングライターは日本に10人も居ないと思います。
若い人ではなおさら。
だからこそ好きな曲ではあるのですが。

 

私が引っかかっていたのは、主人公の「僕」が友人を頼りすぎているではないだろうか?という疑念。

 

自己肯定感の話をこれまでもちょこちょこ書いてきました。
心理学関係の話になるので、ご興味ない方はまるっとすっ飛ばして頂いて結構です。
でも、あまたの物語の根幹に、絡み合った根のようにまとわりついているもの……その大元が、ここにあると最近の私は睨んでおります。
分析好き&素人の戯言でありますので、お好きな方はお読みください(極力短く書きます)

*なお、私視点の「MILK」解説ですので、突拍子も無いと思われる可能性もございます(笑) 秘境ツアーのような、ちょっと変わったレビューをお楽しみくださいませ(^^)

 

自己肯定感=
自分のあり方を積極的に評価できる感情、自らの価値や存在意義を肯定できる感情などを意味する語。 自己否定の感情と対をなす感情とされる。
<<自己肯定感(じここうていかん)とは何? Weblio辞書>>より

つまりは自分の存在を肯定的に受け止められる感覚。

studyhacker.net
この記事はわかりやすかったです。おすすめ。

 

「MILK」の主人公は自己肯定感が低くなっており、そのせいか感情が無くなってしまうという、心の病の一歩手前まで陥っています。

 

マッキーの日常的には、この頃年に二回の大規模なツアーを回っており(1993/5/5~7/25 計39公演 1993/10/24~1994/2/9 計43公演)
過密すぎるスケジュールの身体的負担と、時間がない中楽曲制作をしなければならないという非常にストレスフルな毎日であったと想像できます。
これは感情擦り切れちゃってもしょうがないのでは……と私なんかは思いますが、世間では忙しい日々でもなんの躊躇もなく乗り越えてしまう人間もいるんですよね。
元々生まれもって身体が強いというのもありますし、ストレス?なにそれ、という心臓に毛が生えた(笑)方々もいらっしゃいます。
芸能界は特に浮き沈みも激しく、魑魅魍魎が跋扈しているイメージ。
表に立ってスポットライトを浴びる歌手の部分と、歌詞を描き曲を作るアーティストの部分は言うなれば陽と陰。
マッキーはどちらかというと楽曲作りを大事にしたいのに、それが出来る時間が無く、余裕がない日々に感情を失って曲が書けなくなるという悪循環に陥っていたんだと思います。

 

ここから立ち直ったエピソードとして、仕事仲間のライターさんとお互いの悩みを打ち明けあっているうちに自信を取り戻し、感情が戻って「MILK」を書いた、というのが通説です。
だからこそ、友達って大事だね、ありがたいね、という曲だなという印象を皆持つと思うのですが。

 

私の経験上、友達は大事だね、ありがたいね、は納得しても、困難に立ち向かい、乗り越えるのは自分です。
もしも、人からの助言だけで困難から立ち直ったとしたら、それはもしかしたら「その場だけ」かもしれません。
なぜなら、自己肯定感をあげられる唯一の方法は、自分自身の「考え方の書き換え」しかないからです。

この辺りは踏み込むほど長くなるので、知りたい方は上の記事を読んでくださいませ。
ヒントを得るだけで生きやすくなる方もいらっしゃるかもしれません。

 

さて、「MILK」のレビューに戻ります。

「MILK」は大好きな曲だけど、主人公の行く末を案じていた私。
友人がもしも、彼の元を去ってしまったら?
その時に『ダメな自分』を励ましてくれる人はいるのかしら、と。

 

そんな想いは、こちらを購入したことによって晴れました。
『NORIYUKI MAKIHARA EARLY 7 ALBUMS』
値段に躊躇していたんですけど、今回の騒動でライブも吹っ飛び。
ライブに行くはずだった資金で、マッキーを買い支えようかと。
たまたま定価で出ていたのも購入理由でした。プレミア価格を出す余裕は今まで無かった…。

槇原敬之の初期7作品が、通販紙ジャケBOXとして登場! ・ブックレットには音楽評論家・小貫信昭氏との内容たっぷり!の対談を掲載>

このブックレット。
ページ数は13Pと短いのですが、対談ですからマッキーの生の声が読めます。
雑誌の記事はライターさんの主観が大なり小なり入りますから、マッキーや事務所が許可を出してるといえども、ニュアンスが変わっていたりすることも多々あるはず。

マッキーの文章を一部抜粋します。

「MILK」という歌には諸説あるんですけど、歌のなかで家に訪ねてきたのは、実は僕自身なんですよね。

(NORIYUKI MAKIHARA EARLY 7 ALBUMS ブックレットP8 より)

この文章を読んだ時、ピシーッ!と自分の中でパズルのピースが嵌りました。


ブックレットでもう少し書かれていますが、ライターさんと悩みを打ち明けあっている時、仕事を始めた頃のことを話していると昔の自分に戻るわけですよ、と。

つまり、「MILK」に出てくる2人の「僕」は昔のマッキーとその時のマッキーだったんだと思います。
そして尚且つ、未来のマッキーだったのかもしれない、というのは私の自論です。

 

自分の一番の敵は自分であり、自分の一番の味方も自分である。

ずっと人生を共にする自分の事を自分で攻撃するより、寄り添ってくれるような自分を作って、励ましてもらった方が良いはずです。

否定は袋小路に陥りやすい。けれど、肯定は事実の可視化。そこから変化出来ます。

やっぱり僕は僕だから ダメな自分も好きにならなくちゃ

この歌詞は弱気でも言い訳でもなく、未来に進むための呪文です。
まだ完全に吹っ切れていないのが「~ねばならない」と半ば言い聞かせている所に不安は残りますが。
まず第一歩は進んでいます。
だからこそ、

月も桜を揺らす風も もう僕の前通り過ぎないから

このように感情が戻ってきたのではないでしょうか?

 

また、もう一人の自分とは、俯瞰の視点でもあります。

 

アルバム「SELF PORTRAIT」
ジャケット写真が天使の羽をつけているマッキーで、それに象徴されますが、

自分を俯瞰でみている『何か』こそが主役で、だからこういうジャケットになったんじゃないですかね。

(NORIYUKI MAKIHARA EARLY 7 ALBUMS ブックレットP8 より)

とのコメント。

「MILK」を書く前にスランプに陥り、その後復活して出来たアルバムなので、アルバムの主題がジャケット写真に表れていたのだな、と思われます。

 

そういう意味でも、マッキーの人生のターニングポイントの一つであったという意味でも、「MILK」は特別な歌。

 

 ライブでも人気曲。心にじーんと染み渡ります。

マッキーの体験から生まれた、全「僕」に対する応援歌。

落ち込んだ時に助けられます。

もう一人の自分と同じように、作品は永遠に、自分を励ましてくれる存在。

こんな曲を作ってくれた、マッキー。

あなたが居てくれて、本当に良かった。